MY MEMORANDUM

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オカマ先生と秘密の衣裳部屋 ❸

〈天総一朗からの電話〉

 

「尚人くん? 写メ届いたけど、どれもピンボケじゃないの。なあに? 送った先がパソコンじゃないからって、そんな、アタシのせいみたいに言わないでよ、元の写りが悪いからでしょ」

「とにかく、これ見ただけじゃ何だかよくわからないから、ちゃんと説明してよね。ええ、玄関の鍵は開いていたって、それは聞かなくてもわかるわよ。マスターキーがないのにあっさり入れたってことは、ここは密室じゃなかったわけでしょう。鍵は本人が持っていたのね」

「それで、最初の部屋がマンガ喫茶ね。ほんと、コミックスの数が半端じゃないわ、棚が天井まで届いているじゃない。突っ張り棒みたいなやつでちゃんと防災対策しておかなきゃ、地震がきたら絶対に倒れて下敷きになるわよ。まあ、下敷きになる住人はもういないわけだけど」

「二枚目がテレビとアニメのDVDだらけのリビング、三枚目は現場の衣裳部屋の写真で、左端に写ってるのが転落したっていう窓ね。下の方に転がってたのは何? えっ、花なの? 何の花……バラ? 言われなきゃわかんないわよ」

「じゃあ、黄色いバラの花が三本落ちていたのね。その向こうのガラスの破片みたいなのはバラを生けていた花瓶のものかしら? 凶器? 頭部に裂傷? そういえば破片が赤く塗られていたように見えたわね」

「血液型が一致したって、つまり犯人はこの花瓶で被害者を殴って気絶させて、窓から突き落とした。警察はそんなふうに読んでいるのかしら?」

「そうじゃないのかって、あのね、アタシはこの目で現場を見てるわけじゃないし、いきなり判断できるものじゃないわよ。そうよ、短気は損気、じゃなくて、念には念を入れろってね。もうちょっと調べてみなきゃ、結論は出せませんから。あんまり焦らせないでよね」

「それで、絨毯に広がった黒っぽいシミは花瓶の水というわけね。白く写ってたのはタオル? あらまあ、ティッシュペーパーだったのね。そういえば箱が置いてあるけど……血を拭ったものがクズカゴに捨てられていたって? ふうん。もちろん、こっちも被害者の血液だと判明しているのね」

「じゃあ、四枚目にいくわよ。これは衣裳部屋全体を撮ったものね。ほんと、衣裳ケースにいっぱいの変な服。お金に換算したらすごい金額でしょうよ。こんなもんに使うなんて何だかもったいないわ、って、あら、普段着みたいなのもあるわね。ああ、最初に着ていた服なのね」

「ね、隅っこに扇風機が写っていたけどスイッチ入ってたの? えーっ、エアコンも作動してたって?」

「室温は三十度に設定って、いくら十二月でも高すぎじゃないの。もっとエコしなさいよ、エコ。金持ちだからってエネルギーを無駄使いしていいはずないし、二酸化炭素の排出量削減に貢献するべきだわ。こんなヤツがいるから温暖化が進むのよっ!」

「あらまあ、失礼。つい興奮しちゃって。ところで、この部屋の暖房はエアコンだけなのかしら? ああ、なるほど。灯油やガスを使った暖房器具は禁止ってマンションね。それで標準装備されているのね」

「五枚目……これは転落した場所のものね。フェンスといい植え込みといい、たしかに人目につかないところだわ、物音がしなければ気づかないかも。発見者はよく聞き取れたわよね」

「さて、警察の皆さんは犯人の目星をつけたのかしら? いかが? 犯行時刻の前後、防犯カメラに住人以外の誰か、すなわち不審な人物は写っていなかった、つまり外部犯ではない」

「もしもそういう人物がいたのなら、まずはそっちを追跡するはずだから、事件発生早々にあなたが『不可解な点がある』なんて言って、アタシに相談を持ちかけるはずないもの。そうでしょ?」

「犯人はマンションの住人の中にいる。どう、少しは把握しているんでしょう、教えなさいよ。えっ、何ですって? 親のすねかじりのくせに愛人囲うなんてとんでもないガキね。もう、ふざけんじゃないわよってカンジ。殺されても文句言えないんじゃないの」

「全員がライバルの存在を承知していた、それだけでなく、被害者のコスプレ趣味にも全員がつき合っていた……バッカじゃないの。お金がもらえれば何でもやるのね」

「お金だけじゃなかった? それってどういう意味? なかなかのイケメンだった、って……やーねぇ、それだけで同情したりなんかしないわよ、アタシ。見くびらないでよね。あ、でも、とりあえず顔写真も送って」

                                ……❹に続く