MY MEMORANDUM

オリジナル小説を公開するブログです

オカマ先生と秘密の衣裳部屋 ❺

〈二〇六号室の住人、大井成美(おおい なるみ)(フリーター)の証言〉

 

「へえー、浅木さんって本物の刑事なんだ。けっこーイケてるし、何かドラマの撮影みたい。イケメン刑事って役で出演すれば? きゃはは、同じこと言った人いるんだ。大学の先生で? おもしろーい」

「いつからあいつとつき合ってたかって? うーん、去年だったかな。忘れちゃったよ、もう。クラブでナンパされてさ、そのままホテルへ直行」

「そーよ。ここならカオが効くから、他のマンションの半額以下で安く住めるって言われて、すぐに引っ越した。みんなそう言われて越してきてんじゃないの? トーゼン、知ってるわよ。三階の猫かぶりと、四階の気取り屋でしょ。あんなのと同レベルで扱われてるなんて、まったく、ムカつくったらありゃしない」

「しょーがないじゃん、アタシ、お金ないんだもん。あいつ、すっげえ金持ちだったからさ。つまんないバイト、ソッコーで辞めたのはいいけど、だんだん小遣い少なくなっちゃって、しょうがないから再就職したよ」

「コスプレでエッチ? 面倒だけどつき合ってやったよ。着替えは部屋の中だし、そんなに大きな音をたてたおぼえはないから、誰も気づいていなかったと思うけどね。隣も知らないんじゃない?」

「そう、あいつ、シャイナってキャラが一番のお気に入りだったみたいだけど、アタシには女子高生デカの春日部ハルカってのをやたらと勧めてきたっけ。知らない? そりゃそーよ、マニア向けだもん。どういうアニメかっつーと、制服姿の女子高生が犯人追いかけるってゆー、超くっだらない内容」

「どうして男って、あーゆーキャラが好きなのかしらね。パンツ丸見えの短いスカートはいて大サービスしてるけど、あんなヤツいないって。実際は下着が見えないように黒いスパッツとか履いてんのよ。まあ、ジャージとかスエット履いてないだけマシだけど」

「犯人逮捕を記念してプリクラ撮って、いちいちケータイに貼るってありえないし。だいたいさぁ、男のこととかオシャレのことしか考えてない自己チューな女子高生が世のため人のためにそんな奉仕活動なんて、するわけないじゃん。あんな話考えたヤツも、喜んで観てるヤツもバッカじゃないの」

「ああ、あれね、ほとんどアニメキャラの名前だよ。あいつの交遊関係とか調べるのにケータイチェックしたんでしょ? やっぱりね。そんでもって、カタカナの名前ばっかりで困ってたんだ」

「アタシのコードネームはハルカ。あったでしょ? そう、春日部ハルカの名前使ってメールしてくるんだけど、あいつ気まぐれでさぁ。たまにアキナとかシュリとかいろいろ。他のキャラだけどさ、その選び方って何かテキトーじゃんって」

「そーでしょ、たくさんあってワケわかんない。はあ? 他のヤツらが何て呼ばれていたのかなんて、そんなの知ったこっちゃないわよ。本人に訊いたら?」

「五〇二号室を勝手に使ってたのは全然知らなかった。ってゆーか、あいつ、五階には来させないんだよ。自分がこっちに来るパターン。長い髪の毛とか落ちてさ、親に見つかったらヤバイからでしょ」

「女遊びばっかりしていないで、いい加減に大学卒業しろって怒られたみたいでさ。金やって、さんざん遊ばせておいてよく言うなって思うけど、だからって何年も留年してるヤツもバカだよね」

「犯人に心当たりって、女子高生デカの推理力で捕まえてみろなんて言わないでよね。恨み? さあ、いっぱいいるんじゃないの、そういうヤツ。金持ってるからってイイ気になってたしさ。そうそう、あの二人のどっちかもよ、アタシは違うけど」

「だって金づるに死なれたら困るもん。もっとイイ男が見つかったら、ここから出て行くつもりだったのに、見つからないまま死んじまうなんて、マジついてない。あー、その時間のアリバイなら残念だけどないわよ、部屋でテレビ観てたもんね」

 

 

〈三〇一号室の住人、松田奈々絵(まつだ ななえ)(女子大生)の証言〉

 

「し……信じられないです、しゅ、修平さんが亡くなってしまったなんて……ごめんなさい、さっきから涙が止まらないの。ちゃんとお話ししなくちゃならないのに」

「彼とは今年、アニメサークルの集まりで知り合いました。好きなアニメの話で盛り上がって、ずっと一緒にいて、もっともっと話をしようってことになって」

「ここに来てから、他の皆さんの存在に気づきましたが、ワタシにはもう、彼しかいなかった。大勢の中の一人でいいから、彼の傍にいたいって、そう思ったんです」

「メールで何と呼ばれていたかですね。ワタシはキララっていいます。魔法の国と日本を行き来する魔法使いが主人公の、ファンタジー系のアニメなんですけど、とってもおもしろいんですよ」

「キララは中学二年の女の子として学校に通ったりするから、学園ラブストーリーの要素もあって、カッコイイ男の子を巡って、ライバルの魔法使いなんかが出てきて……あら、ごめんなさい。アニメの話だと、ついついおしゃべりが過ぎちゃうんです。それで友達にも叱られちゃうの」

「キララの他にはユメコかな。トップアイドルを夢見る人魚のサクセスストーリーで、原作は今大人気のライトノベルなんですよ。百万部売れたって話題になってて、もちろんシリーズ全作読んでます。あとはチャッピーって、これ、犬にされちゃった女の子の話なんだけど……あ、またつまんないおしゃべりしちゃった」

「えっと、他の人の呼び名はわかりません。名前の数だけ彼に恋人がいるなんて思いたくないし……一人にいろいろつけてるせいで、たくさんの名前があるんですよねって、そんなの刑事さんにわかるわけないのに……ごめんなさい」

「五階に行ったことはありません。いつもメールで連絡をとって、彼の方からこちらに来るので……コスプレ専用の部屋があるって聞いたぐらいかしら。まさか五〇二号室の話だとは思いませんでした」

「トラブルなんて、そんな……あんなに優しくてステキな人を恨むなんて有り得ません。きっと一方的に恨まれたというか、妬みを買ったんだと思います」

「アリバイって……ワタシも疑われてるんですか? そんなのってヒドイ。彼を独占したいだなんて、ここに住み始めたときからあきらめていたのに、今さら恨んだりするはずないじゃないですか!」

「わかりました。その時間は一人で部屋にいました。夕食を済ませてから彼に借りたアニメのDVDを観て、メールが来るかもなんて期待していたのに……彼は帰らぬ人になっていたんですね」

 

 

〈四〇三号室の住人、宮前ひづる(みやまえ)(予備校講師)の証言〉

 

「修平は教え子でした。浪人していたときに私の勤務する予備校に通っていたんです。お金には興味なかったけど、ダメな男ほど惹かれるっての、あるでしょ? 誘われて、二つ返事でオッケーしました」

「平気で住んでいたわけじゃありません。いくら浮気したって……なんて、私が本命ってわけじゃないけど。それよりも、他の女なんていずれ蹴落として、絶対に私だけのものにしてやるって、燃えたというか、ファイトが湧いてきたわ。今では虚しいけど……永遠に私のものにはならなくなったのね」

「コードネームなんて面白いこと言うのね、刑事さん。私はシャイナでした。修平のお気に入りキャラなのよ。スタイルのいいところが似ている、なんて喜んじゃって。アニメの世界のことはよく知らないけれど、彼が一番気に入っているキャラだから優越感を感じていたわ」

「そうね、頼まれて他のキャラの衣裳をつけたこともあるけど、紛らわしいからメールでの呼び名はシャイナだけにして、って念を押したせいかしら、約束はちゃんと守ってくれたわよ」

「ケータイ、見たんでしょう? 私もこっそりチェックしたことがあって、覚えているのはたしか……ハルカ、アキナ、キララ、シノブだったかしら。よくもまあ、こんなにたくさんの名前が、って呆れたわ。ハルカってのが二階のいけ好かない女だってのはすぐにわかったけど、あとはちょっと不明」

「あら、全部別人ってわけじゃなかったのね? そりゃそうよね、いくら浮気者って言っても、あれだけたくさんの相手といっぺんにつき合うのは無理だわ」

「入ったことはないけど、あの部屋の無断使用はうすうす気づいていたわよ。ここ、五〇二号室の真下だもの。いくら防音してあったって、足音なんかは響いてくるものよ。そこで何をやっていたかは敢えて訊かなかったけどね」

「抱えていたトラブルって、女性関係ぐらいじゃないの。あ、そういえばお金か何かのトラブルもあったみたい。詳しく話してはくれなかったけど、すごくイライラしてた。未来の社長がはした金でイラつくんじゃないわよって言ってやったんだけど」

「五階で犯人と言い争う声みたいなのを聞いていたら、刑事さんたちのお役に立てたのに残念だわ。九時に帰って食事して、その時間にはシャワーを浴びていたのよ。だから怪しい足音なんかもまったく聞こえなかったってわけ。もっとも、こんな内容じゃあ、自分自身のアリバイも成り立たないわね」

 

 

〈再びシノブのブログ〉

 

『シノブのお部屋へようこそ!』

『待ちきれなくてまたまた書き込みしちゃった。殺人事件の続報よ!』

『凶器に使われた花瓶ってのがあるんだけど、そこから指紋がとれたのよ。そんなわけでマンションに住んでる人全員が照合用の指紋とられちゃって、すっごくメイワク~』

『犯人扱いされるのってなんかイヤよねぇ。さっさと自首すればいいのにって思ってたら、ビックリ! アイジンの一人の指紋が一致して、任意でご同行求められちゃったってわけ。やっぱりあの中にいたんだってナットク。疑われるのが恐くて、五階には行ったことがないって嘘をついた、ですって。そんな嘘、すぐにバレるのに浅はかよねぇ』

『その人についてはアタシたちもいろいろと訊かれたけど、目撃情報とかはなかったとしてもよ、いちばんの容疑者であることには変わりないじゃない』

『それなのに、本人は犯人じゃないって言い張ってるらしいのよ。あの花瓶は一昨日、彼の部屋に置いてあったものをつい触ってしまったとか何とか、そんな言い訳が通用すると思う? よくもそこまでしらを切れるなっていうか、ずうずうしいっていうか、呆れるってゆーより感心しちゃうわ』

『それじゃまた、新しい情報が入ったらアップするから待っててね~』

                                 ……❻に続く