MY MEMORANDUM

オリジナル小説を公開するブログです

オカマの王子様と時雨の森の幽霊館 ❺

  Ⅳ  推理合戦

 

 食卓からソファの方へ移った創たちはそれぞれにくつろいでいたが、二回戦をやると声がかかったとたんに、あとから来た二チームのメンバーが帰ると言い出した。

 ごちそうもいただいたことだし、これ以上、作家の道楽にはつき合っていられないと思ったのだろうか。

「そうですか。それは残念ですが……気をつけてお帰りください」

 三島先生は引き止めもせずに、あっさりと送り出した。玄関までは薫がついて行って、人々を見送った。

「なあ、オレたちもそろそろ帰った方がいいんじゃねーの?」

 こっそりささやくと、尚人は肩をすくめるしぐさをしてみせた。

「そうはいかないみたいだよ」

「えっ?」

 食卓の料理はすっかり片づいていた。

 その代わりにティー・カップ、ミルクの入ったピッチャーやレモンの薄切りに砂糖壷、いろんな種類のチーズが盛られた白い大皿などと一緒になぜか、ロウソクを立てた燭台があった。

 足つきのグラスを手にするのは圭輔と歌純、三島先生は深緑色のボトルのコルクを抜いている。

「あれって?」

「赤ワインじゃないかな。先生のことだからかなりの高級品だろうね」

 チーズの盛り合わせはワインのおつまみだったのだ。

 ワインつまり、お酒を飲む──運転はできない──今夜は宿泊──という展開になる。

「まさか……」

 不安をおぼえて総一朗を見る。われらの運転手はどうするのだろうか。

「さあ、キミもひとつどうですか」

「いえ、アタシは」

 すると先生はソファに座る創たちをチラリと見た。

「なに、子どもたちなら心配いりませんよ。今朝、電話があったときに、霧島さんには凛子さんの宿泊の了解を得ましたし、加瀬くんと浅木くんのお宅にも連絡をとってもらいましたから」

 なんと、三島先生は初めからみんなを泊めるつもりでいたらしい。

 チームに大人を入れる目的は運転手のほかに、宿泊の許可を得るための保護者が必要だったからだ。

「……ここに泊まるの?」

 凛子が消え入りそうな声でつぶやいた。

 せっかく元気になったのに、またしても試練が凛子を待ち受けていた。

 霊感少女としては、幽霊のうろつく建物に泊まるのは遠慮したいと言いたいのだろう。

 いや、凛子だけじゃない。オレだってカンベンして欲しいと創は思ったが、とうてい言い出せるはずはなかった。

「彩音ちゃんの家にはオレが連絡しておいたからね」

 そう言って圭輔がVサインを送る。高級ワインを飲んで、すっかりゴキゲンだ。

「ええーっ!」

 不服そうな声を上げた彩音だが、尚人の顔を見て思い直したように、

「わかったわよ」

と、答えた。

 幽霊館に泊まるのはゴメンだが、尚人と凛子がひとつ屋根の下にいるのに、自分だけが帰るのは悔しいと考えたようだ。

「そういうことですか、わかりました。それでは遠慮なくいただきますわ」

 総一朗はグラスを受け取ると、食卓を囲む三人に視線を送った。

 これで二回戦以降は凛子チーム対良太チームの一騎打ちとなる。どうあっても圭輔との因縁の対決は避けられないと、総一朗は覚悟を決めたようだ。

 薫がティー・ポットを持って戻ってきたのを合図に、もう一度食卓に着くよう言いわたされ、創たちは総一朗の横に、良太と彩音は圭輔のとなりに並んで座った。

「それじゃあ、薫くん、頼むよ」

 室内の照明が消され、あたりを照らすのはテーブル上の小さなランプと、燭台のロウソクだけ。

 幽霊館の名に合わせてか、某タレントが怪談話を始める時のような、不気味なセッティングとなった。

(マジで気味悪い……)

 全員で三島先生の動きを見守っていると、視線を一身に集めた先生はやがておもむろに話し始めた。

「この建物が幽霊館と呼ばれているのは皆さんもご存じだと思いますが、そのいわれとなった事件について、どの程度おわかりでしょうか」

 みんなそれぞれに顔を見合わせ、首をかしげる。

 その昔、殺人があった、幽霊が出るらしいとは聞いているが、詳しくは知らない人がほとんどだったのだ。

「ミステリ作家のさがでしょうか、ここで起きた事件について興味を持った私は当時を知る人に取材したり、資料を集めたりして調査をしました。今からその概要をお話しいたします」

 部屋を暗くしたのは、殺人事件の話を盛り上げるための凝った演出だった。

 それにしても、殺人事件の概要が二回戦とどう関係があるのだろうと思ったが、そのまま耳をかたむけていると、

「二十年ほど前、夫は四十二歳、妻は二十三歳と、年齢差のある一組の夫婦がこの館に引っ越してきました。夫の職業は油絵を専門にする画家で、やはり芸術家だからでしょうか、まるでプチ美術館のような館が気に入って買い取ったというわけです」

 無名の画家に大きな家を買うお金があったのかと思ったが、実家がかなりの資産家で、絵を描くのは道楽の域だったらしい。

 そんな画家の夫は昔の交通事故が原因で車椅子生活を送っていたが、この建物にはエレベータなどはなく、車椅子では二、三階に上がることができない。

 したがって生活する範囲は一階のみで、ほかに適した部屋がないといって、作業するためのアトリエを別棟として建てた。

「玄関側からは見えませんが、建物の裏にあります。皆さんが歩いてこられた廊下をさらに奥まで進むと裏口に突き当たります。そこの扉を開けると、渡り廊下を伝ってアトリエに行けます」

 つまり、幽霊館から生えたしっぽのような形で、アトリエが存在しているのだ。

「さて、当時この建物には夫の作品を扱う画廊のオーナーの息子という人が出入りしていました。父の手伝いとして、作品を受け取っては店に出すという仕事をしていたわけですが、足の不自由な夫に代わって画材を買ってくるなど、何かと夫妻を手助けする、御用聞きみたいな存在だったのです」

 やがて、若くてハンサムな息子と、若い美人妻が接近する。息子がこまめに出入りしていたのは妻の存在があったからだ。

 いかにも、ひと昔前のミステリ小説にありがちなストーリーで、夫が二人の仲を疑い、ついには殺人に発展するというのも、お約束の展開であった。

「ある日、夫に呼び出されたまま、息子が帰ってこないのを心配したオーナーがアトリエで変わり果てたわが子を見つけ、すぐさま警察に通報して捜査が開始されました」

 警察が踏み込んだところ、寝室のベッドの上で血まみれになった夫妻の遺体を発見。どちらも薪割り用のナタによって命を奪われていた。

「一方、オーナーの息子の死因はナイフによる刺し傷で、当初はこの息子が夫妻を殺害した上、自殺したと思われたのです」

 ところが検死の結果、妻の死亡推定時刻は午前五時で、夫と息子は午前十時前後と、五時間ほどの差があった。

 しかも、息子が呼び出されたのは午前九時前だったとオーナーが証言している。

 そこで──

 オーナーの息子と妻の関係に嫉妬した夫は就寝中の妻を寝室にて、ナタをふるって殺害。そのあと、今度はナイフで、訪ねてきた息子に襲いかかったが、相手は若者、まともに戦ってかなうはずはない。当然、反撃にあって自分が命を落とすはめになる。

 しかしながら、正当防衛とはいえ、夫を殺してしまった罪の意識から、息子はナイフで自殺した──というのが、当時の警察の出した結論だった。

 夫妻が亡くなった現場となった、寝室として使われていた部屋は裏口のすぐそばで、今は開かずの間になっているようだが、集いの間からキッチン、納戸と数えて三つめのところにあると聞くと、創の背筋がゾゾーッと凍りついた。

 拭いても拭いても消えない血痕があると、うわさになったのはその部屋か、それともアトリエの方なのか。

 どちらにしろ、無念の死を遂げた人々の怨念が残っているのではないか。目撃された若い女の幽霊はその美人妻だろう。

(今度こそ、マジでヤバイよな)

 泊まると決まった直後に、こんな話を聞かされては生きた心地がしない。

 となりの二人を見ると、尚人はくちびるをギュッと結び、凛子は小さくふるえているようだった。

(大丈夫かな、凛子……って、オレもかなりビビッてるんだけど)

 部屋の空気が重く、冷たくなり、誰もがおし黙っている。

 三島先生は全員をゆっくりと見渡すと、さらに続けた。

「しかし、警察の結論が真相なのかどうかは明らかではなく、多くの謎が残されたままになっている。今さらそれを解明したところで、事件がどうなるものでもありませんが、この場で検討するのは自由でしょう」

「……ま、まあ、そうですね」

 ようやく圭輔があいづちをうつと、先生は大きくうなずいた。

「さて、今から申し上げるのは私が疑問に思った点です」

 ※一つめの謎。ナタとナイフ、二種類の凶器があったのはなぜか。

 ※二つめの謎。息子の体にいくつかの切り傷があった理由。どれもナイフによるもので、ナタで受けた傷はない。

 ※三つめの謎。夫妻の血痕は寝室のベッドの上のみで発見され、逆に、息子の血痕は寝室では見つからず、渡り廊下やアトリエの中に落ちていたのはなぜか。

 ※四つめの謎。息子はどうして、わざわざアトリエで自殺したのか。

「これらの疑問を解決するべく、私はいろいろと推理をしたのですが、今からあなた方にも推理していただきたいと思います。これが本日の二回戦となりますが、よろしいでしょうか?」

 ギョッとした顔をして圭輔がチームメイトたちに視線を送り、それから総一朗を見る。二人の戦いはかつてのサークル時代と同じく、推理力対決となったわけだ。

 大学の後輩にして最強のライバル。そんな相手との対戦を前にして、圭輔は酔いがさめてしまったようだが、一方の総一朗はいつになく思慮深い顔つきになっていた。

(あれ、何だかいつもと雰囲気違う)

 すると凛子がささやいた。

「テンちゃん、探偵モードに入ったのよ」

「探偵モード?」

「事件の推理をするときはいつもあんな感じになるのよ。ふだんのテンちゃんもステキだけど、探偵モードはもっとカッコイイんだから」

 当の総一朗は落ち着いた口調で、

「先生が疑問に思われた点を論理的に説明すればよいのですね」

と、念を押した。

「そのとおりです」

「二つほど、質問をしてもいいですか?」

「何なりと」

「事件発見時に夫の車椅子はどこにありましたか?」

「寝室です」

「アトリエの入り口に鍵はついているのですか?」

「ついていますが、当日は開いたままになっていました」

「わかりました。ありがとうございます」

 なんと、総一朗の言葉がオカマしゃべりではなくなっている。これが探偵モードの状態なのかと創は感心した。

 総一朗がシンキングタイムに入ったのを見て、ますます焦っていると思われた圭輔だが、ピューッとわざとらしく口笛を吹いた。

「推理研のエース始動かな。だが、オレもだてに社会人やっちゃいないぜ。あざやかな名推理ってやつを披露するから、彩音ちゃん、歌純さん、期待して待っててよ」

「そうさせてもらうわ」

 歌純は残っていたワインを自分のグラスに注いで飲み始めた。

 五分、十分……二人の探偵が考え込んでいる間、創は自分でも謎を解いてみようと試みたが、そもそも何が謎なのかもわからなかった。

(台所に近いんだから、ナイフなんてすぐに持ってこれるし、なぜアトリエで、ってのはたまたまじゃねーの。切り傷や血痕があっちこっちに残ったのは逃げまわったからだし)

 だが、こんな解答では先生が納得するはずはない。

 じりじりと時間が過ぎた。

 みんなの気持ちを落ち着かせようとしてか、薫が何杯かめの紅茶をそれぞれのカップに注いでまわった。

「……そろそろ、いかがでしょうか?」

「よっしゃ! それじゃあ、オレから説明させてもらいますんで」

 パチンと右のこぶしで左の手のひらを殴ったあと、圭輔は自信まんまんの表情で語り始めた。

「オーナーの息子ってヤツは正当防衛じゃなくて、夫を殺すつもりで来たんですよ。自分が殺されるかもしれない、やられる前にやれってね。ナイフはここにあったんじゃなくて、自分で準備したものということです」

 ここで圭輔はおおげさな身ぶりで、ナイフをふりかざすマネをした。

「ところが、相手は足が不自由なんだし、自分の方が有利だと油断していたせいで、ナイフを奪われ、そいつで切られちまった」

 代わりにナタで反撃、何とか勝負をつけたあと、ナイフを持って逃げるつもりで玄関とは反対側、つまり、渡り廊下からアトリエに入ってしまった息子は錯乱状態になって自殺した。

 以上が圭輔の推理で、三島先生が指摘した謎についての答をまとめると、

 ※一つめの謎の答。ナタは夫が、ナイフは息子が用意した。

 ※二つめの謎の答。息子の体の切り傷は奪われたナイフによって、夫から受けた。

 ※三つめの謎の答。明確な解答はなし。

 ※四つめの謎の答。息子は殺人を犯したことで、錯乱状態になっていた。

「なるほど。ナイフを用意してきたというのは考えましたね」

 聞き終えた三島先生はうなずきながらも、矛盾を指摘した。

「しかし、夫を殺す前に傷を受けたのなら、寝室に息子の血痕がなかったことはどう説明しますか?」

「えっ、ですから……そうだ、息子が傷を受けたのは廊下だった。二人のバトルは廊下で行なわれたんですよ」

「では、夫はわざわざ寝室に戻り、ベッドの上でとどめを刺されたと? 殺されるのを覚悟していたのでしょうかね」

「あ、えっ、えーと」

「どちらにしても、息子は寝室へ入ったことになりますね」

 三島先生の容赦ない突っ込みに、ツラの皮が厚い圭輔もタジタジとなった。

「えっと、それは……」

 しどろもどろの圭輔を見た彩音は良太に向かって、

「あんたのお兄さんもたよりないわね。兄弟そろってダメダメじゃないの」

と、意地悪く言い放った。

 圭輔がギブアップしたところで選手交代、いよいよ名探偵の誉れ高い天総一朗の出番となった。

 総一朗はゆっくりと語り始めた。

「この事件が計画的犯行だったことはたしかです。夫はあらかじめナタを用意し、妻が寝静まったところを狙った。オーナーの息子に対しても、変だと気づかれずに電話で呼び出しているわけですから、カッとなってやったという種類の事件ではありません」

「そんなことは言われなくてもわかってるよ」

 自分の失敗をたなに上げて、不服そうにケチをつける圭輔を無視すると、総一朗は推理を続けた。

「だとすれば、夫はオーナーの息子を確実に殺す方法をとると思われますが、いかがでしょうか? まともにやりあったのでは不利、たとえば毒をもる、わなをしかけるといった手段を用いるのが自然じゃないかと」

 つまり、むやみに凶器をふりまわすだけでは無理だという話だ。

「それでも毒殺ではなく、刃物を使っての刺殺を狙うからには、ターゲットの動きを封じる必要があります」

「なるほど」

「鍵のかかる場所、アトリエなら仕事をネタに、疑われずに誘い込むことが可能でしょう。もちろん、使う刃物は隠し持てるナイフで、これはこの館にあったことになります」

「一度使った刃物は切れ味が悪くなりますからね。二種類あった方が確実ですね」

 三島先生はそう言ってフォローを入れた。

「ええ。さて、夫は息子をアトリエにおびき寄せて、鍵をかけてからナイフで襲う。しかし抵抗されたために、傷を負わせただけで、そのうちに何とか鍵を開けた息子はいったん逃げ出したと、ボクは考えます」

 すると、すかさず圭輔が文句をつけた。

「ちょっと待った! それじゃあ、あとが続かないし、話にならないじゃないか」

 たしかにそのとおりだ。

 今の総一朗の推理では、

 ※一つめの謎の答。夫はナタとナイフを使い分けていた。

 ※二つめの謎の答。息子はアトリエにて夫に襲われ、切り傷を受けた。

 ※三つめの謎の答。息子がアトリエから逃げ出したために、渡り廊下などに血痕が落ちていた。

 ※四つめの謎の答。不明。

──以上のような結果になるが、肝心の夫の殺害が行なわれていないどころか、何ひとつ触れられていないのだ。

(何だよ、神明大の名探偵って、その程度なのか?)

 何だか失望してしまった創だが、総一朗はすました顔で、

「そうですね」

と、答えた。

「じゃあ、いったい……」

 文句を続けようとする圭輔に、黙るよう合図すると、総一朗はとんでもないことを言い出した。

「残念ながら、当時の警察の判断には根本的な間違いがあります。ですが、それは誰しもがおちいる盲点で、ある意味、しかたのないことだとも言えます」

「何だよそれ。カッコつけて、もったいぶるんじゃねえよ!」

 しつこくほえる圭輔には見向きもせず、総一朗が言い放った言葉は創たちをビックリ仰天させた。

「この事件で殺されたのは妻と息子で、夫は自殺したんですよ」

「ええーっ!」

 あまりにもとっぴな答に、三島先生をのぞいた全員が驚きの声を上げた。

「息子の受けた傷が夫によるものは明らかですから、先に負傷したのは息子ですね。だとすれば、廊下にもたくさんの血痕を残している息子が寝室にて、一滴の血も落とさずに夫を殺害するというのは無理なことです」

 ここで、

 ※三つめの謎の答その二。息子の血痕が寝室で発見されなかったのは、夫の死が自殺によるものだったから。

と、いうことになるが、

「そ、それじゃあ、息子はどうなったんだよ?」

「先ほど、息子はいったんアトリエから逃げ出したと言いましたよね。ところが、夫に追いかけられ、廊下でとどめを刺されたあと、アトリエにほうり込まれた、あるいは、再びアトリエに追いつめられて殺された、そのどちらかではないかと思います」

 ※四つめの謎の答。息子はアトリエで自殺したのではなく、殺された。

「息子の死を確認したのち、夫は寝室に戻って、妻を殺したナタで自殺……」

「ちょっと待ってください!」

 疑問の声を上げたのは尚人だった。

「車椅子で移動している夫がそこまで自由自在に動けるはずはないでしょう? それとも、いくら傷を負っていたところで、車椅子の人にみすみすやられるほど、息子は足の遅い、鈍い人物だったということですか?」

「だから、そこが盲点なんだよ」

 総一朗はニッコリすると、またしてもとんでもないことを言った。

「じつは、夫は自由に動ける身だった。つまり、車椅子がなくても歩ける体だったとしたら、どうかな?」

「あっ……!」

 ア然とする尚人、もちろん創も驚きのあまり、ぽかんとしてしまった。

「そ、そんな」

「夫の足はとっくに治っていたけれど、何かの理由で不自由を装っていた。わかっている事実をつなぎあわせると、そうとしか説明がつかないんだ」

「たしかに、それならつじつまが合うわ」

 凛子の納得したらしい言葉を聞くと、総一朗はさらに、

「夫の自殺はいかにもナタで殺されたように見せかけていたから、警察は他殺と断定したんだとボクは思う。ナタについた指紋を調べたかって? 自殺の前に、息子の死体の手ににぎらせるという方法でどうかな」

「もしかして、凶器を別にしたのも、息子だけアトリエで、っていうのも、自分たちと一緒じゃイヤだったのかしら?」

「そういう心理が働いたのかもしれないね。夫は妻と無理心中するつもりで、憎い息子も巻き添えにした。あわよくば、息子が自分たち夫婦を殺したという罪をかぶればいいと思っていたんじゃないかな」

「それだけ息子を憎んでいたのね」

「死亡推定時刻の時間差がなければ、妻を殺したのも息子と判断されていたわけだしね。つまり、これは復讐だよ」

 突然、拍手が鳴り響いた。

 パチパチと手をたたいていたのは三島先生だった。

「総一朗くん、お見事です。私が考えた推理とぴったり同じですよ」

 事件の詳しいいきさつを知った時に、三島先生が推理した内容と、今回の総一朗の推理が一致したということだった。

「さすが、名探偵といううわさは本物だったというわけですね」

「あらイヤだわ、先生。そんなにほめられたら照れちゃう~」

 あっという間にオカマに戻ってしまった総一朗に、創たちはあっけにとられるやら、あきれるやら。

「何だよ、さっきの探偵モードの方がよかったのに」

 不服そうな尚人に、凛子はクスクス笑いながら、

「めったに見られないから、価値があるのよ」

などと、コメントした。

「スーパーレアってことか。レアとかコモンとか、ふだんはアンコモン?」

「創、何の話してるんだよ?」

 それにしても総一朗の探偵モードはめちゃカッコよかった。

 ふだんの姿はオカマ。いざとなると、たよれる名探偵。ここぞという時に変身するヒーローみたいだ。

 凛子が憧れるのも無理はなく、創自身もすっかりファンになっていた。

 ──さて二回戦の結果、凛子チームの合計得点は二十点で、良太チームは十点。その差は十点となった。

 このあとの対戦で良太チームのばん回はありえるのだろうか?

                                 ……❻に続く