MY MEMORANDUM

オリジナル小説を公開するブログです

キセキのツルギ ❶

    第一章

 それははるか昔のこと、中国のとある少数民族が大百足の妖怪に襲われた。

 その時、一族の中の勇気ある人々が不思議な力を持つ剣を使ってこの妖怪を退治し、魔力を封じる力のある銀製の壺に妖怪の魂を封印すると、守り神を祭る御堂へ壺を納め、平和を取り戻すことができたのである。

 だが、何百年も経った現代において、その恐怖が再び蘇ろうとしていた……

    ◇    ◇    ◇

 五月の連休明け最初の月曜日、春日龍(かすが りゅう)が通う常聖(じょうせい)小学校五年三組に転校生がやってきた。

 担任の山岡先生の紹介によると、その転校生はお母さんがアメリカ人で、お父さんは日系何世だか、ご先祖さまに日本人がいるため、名字は冬元(ふゆもと)という。

 たしかに髪の毛などは金髪にも見える冬元ロッキーは黒板の前に立つと、みんなの遠慮のない視線を気にする様子もなく、にっこり笑った。

 日本の男子小学生だったら絶対着ないであろう、派手なピンク色のTシャツに紫のハーフパンツがまぶしい。

「初めまして。仲良くしてくださいね」

 日本語を上手に話すロッキーに感心している龍の後ろの席で、女子たちがヒソヒソささやく声がした。

「色が白くて、鼻も高くてカッコイイ!」

「やっぱりガイジンの男の子って、日本人と違うわよね」

 そして休み時間になると、女子の何人かがロッキーの机を取り囲み、この美形の転校生にあれこれと質問をあびせた。

「ねえ、どこに住んでいるの?」

「ワタシにも英語教えてよ」

 女の子にとことん優しいロッキーはすっかり人気者だが、それがおもしろくないヤツは必ずいるもので、クラスの中でも一番いばっている宍戸と、その仲間たちがインネンをつけにやってきた。

 小学生とは思えないほど身体の大きな宍戸は全身をゆすりながらロッキーの前に立つと、机の上にバンッと手を置いて、相手を威嚇した。

「おいっ、新入り、いい気になってるなよ。ここは日本なんだからさ、ガイジンはおとなしくしてなきゃいけないんだぜ」

 何の根拠もないルールをふりかざす宍戸にビックリしたのか、ロッキーは目をぱちくりしている。

 この横暴な連中は「やめなさいよ」と止める女子にゴム製のヘビやゴキブリのおもちゃを投げ、教室内に悲鳴がこだましたが、そんな様子を見るにつけ、弱い者いじめが大キライな龍はだんだん腹が立ってきた。

「そんなことをして、何がおもしろいんだ」

 龍の言葉に、いじめっ子たちはいっせいにこちらを向いた。

「なんだ、エラそうに。チビのチョンマゲ野郎がこのオレにケンカ売る気か?」

 この大きな相手を前にしてもひるむことなく宍戸をにらみつける龍、身体は小柄だが、きりりとした眉に大きな瞳、長く伸ばした髪を首のあたりでひとつに縛った、落ち武者のようなヘアスタイルが特徴の彼は「チビのチョンマゲで悪かったな」と言い放った。

「へっ、いくら野武士みたいな頭にしたって、しょせんは弱小道場じゃねえか」

「るせーよ。ウチの道場のことは関係ねーだろっ!」

 龍の祖父、春日団兵(だんぺい)は剣道の道場を開いている。以前は大勢の門下生がいたらしいが、今は孫の龍だけ。つまり春日道場で剣道を習っているのは龍一人きりなのだ。

「それが大ありなんだな」

 宍戸はせせら笑いながら、

「オレもなあ、通うことにしたんだ。あの明武館(めいぶかん)にさ」

「そうそう、ボクたちみんなで入門したんだよね」

 宍戸の子分、和田が同調した。

「め、明武館だって?」

 明武館は春日道場にとって、いわばライバル関係にあるが、たくさんの門下生をかかえていて大繁盛。とても比べものにならない。

「道場の対抗試合、ほら、毎年夏と冬にやるやつ、あの大会が楽しみだぜ。当然、おまえのところも参加するんだろ? 悔しかったら団体戦で勝ってみせろよ」

「それ言っちゃあ、おしまいだよ。団体戦は五人一組なんだから」

 剣道の大会において、団体戦競技に参加するには一チーム五人という規定以上の選手が必要である。

 門下生のいない春日道場はその条件を満たすことができないのを知っているから、二人はそんな意地悪を言っているのだ。

 悔しさに唇をかむ龍を「ざまあみろ」とあざ笑うと、宍戸たちは満足そうに引き揚げていった。

    ◇    ◇    ◇

 その日の放課後、帰りのしたくをしている龍のところにロッキーがやってきた。

「春日クン、キミ、剣道やってるの?」

「えっ? ああ、まあな」

 するとロッキーは目をキラキラと輝かせた。

「ワンダフル! ボク、一度でいいから日本の武道をやってみたかったね。キミの道場に案内してくれるかい?」

 やはりアメリカ生まれ、ロッキーは会話に英単語をはさんでくる。

「マジで? ホントに入る気あるの?」

「もちろんね」

「よっしゃ、じゃあ善は急げだ」

 昇降口で上靴を脱ぐのももどかしく、二人は大急ぎで校門を走り抜けると、龍の自宅をめざした。

 そんな彼らの前を一人の少年が歩いていた。メガネをかけ、フードつきのシャツを着た、小柄でやせっぽちの少年は本を広げながら何やらブツブツつぶやいている。

「あっ、ドクター!」

 突然声をかけられて、メガネの少年はビクッとした。

「だっ、誰かと思えば龍君、びっくりするじゃないですか」

「本読みながら歩くのはやめた方がいいって。危ねえぞ」

 少年の名前は季村至(きむら いたる)といい、五年三組のクラスメイトで勉強大好きの変わり者だ。勉強好きなだけあって何でもよく知っていることから、ドクターというアダ名がついている。

 そんな至と、どちらかといえば勉強が苦手な龍はなぜか気が合い、一番の友だちだ。

「おや、転校生の冬元君も一緒ですね」

「ああ。オレんちの道場に入門したいって言うんで、今から行くとこ。ドクターもつき合えよ、いいだろ」

「いえ、ボクはちょっと……」

 しぶる至にはかまわず、龍は強引に彼の右腕をつかんだ。するとロッキーも龍にならって至の左腕をとり、つかまれた本人はポカンとして、この転校生の顔を見た。

「ヨロシクね、季村クン」

 ウインクするロッキー、龍が「今日からオレたちは友だち。ロッキーって呼ぶからさ、オレのこともリュウって呼んでくれよ。ドクターもそれでいいよな?」と至に訊くと、

「そ、それはもちろん……」

「ワオッ! いっぺんに二人もフレンドができて、ボク、とってもハッピーね!」

 大喜びのロッキーと龍にはさまれたまま、至は道場まで連行されるはめになった。

    ◇    ◇    ◇

 龍の父は三年ほど前から仕事で海外赴任しており、母も同行したため、龍は父の実家に預けられている。兄弟はなく、祖父母との三人暮らしだが、寂しいと思ったことはなかった。

 由緒正しい家柄であると祖父が自慢するわりには、ごく普通の家の玄関を開けると、奥から祖母の春日みねが出てきて、三人を出迎えた。

「お帰り、龍。お友だちも一緒かい?」

「こんにちは。おじゃまします」

 礼儀正しくあいさつする至を見たロッキーもあわてて頭を下げた。

「まあまあ、よくいらっしゃいました。季村くんと、そちらは……」

 異国の小学生登場に、さすがの祖母も驚いたようである。

「冬元ロッキーです、ヨロシク」

「ロッキーは今日転校してきてさ、ウチが道場だって聞いて、剣道やってみたいって言うから案内したんだ。じいちゃんはいる?」

「たぶん道場の方じゃないかね」

 龍はランドセルをドサリと放り出すと、再び外に出た。至とロッキーもあとに続く。

 春日家の自宅に並んで、古臭く重々しい感じの建物が建っているが、これが噂の道場である。

 入り口には大きな看板が掲げられていて、身がひきしまるような、独特の雰囲気が漂っている。近寄ってみると、中から話し声が聞こえてきた。

「あれ、じいちゃん、ひとりごと言ってるのかな? ボケちゃったんじゃねえだろうな」

「まさか。ほかに誰かいるんですよ。ほら」

 団兵の下駄と並んで土間に置かれた靴を至が指さした。男物らしいが、バレエシューズのような、奇妙なデザインの靴である。

「お客さんが来ているなら、そうと教えてくれりゃいいのに。ばあちゃんも気がきかねえんだから、ったく」

 土間から上がってすぐのところには衝立が置かれていて、道場内が外から丸見えにならないようにしてある。

 これでは中の様子がわからないため、龍は衝立に隠れるようにへばりつくと、こっそりと顔をのぞかせた。

「あっ!」

「どうしたんですか?」

「ドクター、えっと、ほら、あの人、何だっけ? そうだ、プリンスメロン!」

 自信満々な龍の言葉に、あとの二人はアゼンとした様子だったが、プリンスメロンと呼ばれたのは何者なのか、好奇心にかられて、龍の背中越しにのぞき込んだ。

「オーッ! ベリー・ビューティフル・ガールね」

「ガール? 女じゃないぜ、男だって」

「ホワィ? オー、マイ、ガーッ」

 稽古着姿の祖父と向かい合わせに座る人物、白い服を着て、髪をポニーテールのように結んで長くおろしたその人はかなりの美男子で、ビューティフル・ガールに見間違えるのも無理はない。

 至があきれたように言った。

「あの人はホワイト・プリンス。メロンじゃありませんよ」

「ホワイト・プリンス?」

「ウチの学校の六年生で、名前は秋牙門(しゅう がもん)さん。いつも白い服を着ているからホワイトで、ごらんのとおりのイケメンでしょう? 女の子たちに大人気だからプリンスなんです」

「オーケー。もしかしてプリンスも剣道を始めるつもりでここに来たのかもね」

「あー、もう。メロンだって何だっていいじゃねえか」

 次の瞬間、油断した龍が寄りかかった重みで、衝立は道場内にバタンッとひっくり返った。団兵が驚いたのは言うまでもない。

「こりゃー、龍! そこで何をしている?」

 たちまち落ちた雷に、龍は首をすくめた。

「やっべー」

「立ち聞きするとは何たるザマじゃ。客人に失礼ではないか」

 古めかしい言い回しで、さらに続きそうな団兵のお説教、だが、それを制して、ホワイト・プリンスこと秋牙門は龍たちの方に向き直った。

「お邪魔をしています。私と同じ学校の生徒がこちらにいたとは知りませんでした」

 その落ち着いた物腰といい、大人びた口のきき方といい、とても小学六年生のものとは思えない。

「はあ……」

 中途半端な返事をした龍は衝立を戻すと、手招きされて団兵のとなりに座り、至とロッキーもそこに並んだ。

「牙門君はな、我が家の家宝について訊きたいと訪ねてきたのじゃ」

 牙門の訪問の目的は入門希望ではなかったようだ。

「家宝って、あのボロッちい刀だろ。なんでまた」

「ボロッちいとは失敬な、バチあたりめ」

「だってさぁ、どう見たってお宝なんてもんじゃないぜ。鑑定に出したら笑われそうじゃん。アレの何が知りたいんだよ?」

「そのわけはワシもまだ聞いてはおらんのじゃ。話してくれるかの」

 うなずいた牙門、その口より驚くべき内容が語られ始めた。

    ◇    ◇    ◇

「……私の父は中国の雲南省というところの出身で、仕事で日本に来て母と知り合いました。つまり私は日中の混血なんです。半月ほど前でしたか、父の父、私にとっては祖父から連絡があって、我々エイ族に伝わる宝刀、伝説の剣を探して欲しいと頼まれたのです」

 その伝説の剣とやらが春日家にあるボロッちい刀だというのだろうか? 

 あまりにも唐突な話に皆、開いた口がふさがらないでいる。

「中国は文化・習慣の違う多民族国家というのはご存じでしょう。中でも雲南省は少数民族の集まった地域で、エイ族とはそのうちのひとつなんです」

 エイ族の長、これは村長のような存在だが、その人がもっとも信頼する部下が牙門の祖父ということらしい。

「長の依頼を受けた祖父から父へと話が引き継がれ、父が仕事の合間に調べた結果、こちらにそれらしい剣があると……」

 それから牙門は祖父から聞いたという、エイ族の伝説を話し始めた。

 エイ族はもともと大都、現在の北京の辺りに住んでいた。武術に優れた民族で、誰がいつ作ったのかはさだかでないが、四本の剣を一族のシンボルとして掲げるようになったのである。

 ある時、彼らの村が大妖怪に襲われたのだが、その退治に使われたのがシンボルの剣だった。剣は単なる飾りではなく、妖怪を倒すことのできる不思議な力を秘めていたのだ。

 ところが、中国が元と呼ばれた時代に、時の権力者、フビライ=ハンの国家統一の戦いに参加したエイ族はその混乱の最中に大切な剣を失ってしまった。

 やがて大都を追われて南下、たどり着いた雲南の地に住み着き、以来そこに定住しているというわけだ。

「中国国内でなくした剣がどうして日本にあるとわかったんですか?」

 至が口をはさんだが、もっともな質問である。

「国内でなくしたのではありません。鎌倉時代に起きた元寇、あるいは蒙古襲来と呼ばれる歴史上の出来事を知っていますか?」

 うなずく人々、しかし龍だけは首をひねったあと、日本史は六年で習うから仕方ないのだと開き直った。

「元と高麗の軍が日本の対馬や博多を襲撃したとき、その軍にエイ族の者が加わっていて、剣を持ち出したと記録にあるそうです。そして、四本のうちの三本までが日本軍の手に渡ったとも」

「そうかっ!」

 団兵がポンッとひざを打った。

「我が春日家のご先祖様は博多の出身で、身分の高い武士だったそうじゃ。おそらく戦いに参加していて、相手の剣を奪うか何かしたに違いない」

「かろうじて残った一本が長の手元にあります。写真を持参しているので、同じ形のものかどうか、たしかめたいのですが」

 立ち上がった団兵が床の間の横にある戸棚から取り出したのは、色がすっかりはげあがってしまった布にくるまれた、長さ六十センチほどの細長い物体である。うやうやしくいただいてから、祖父は布をめくってみせた。

 かつては美しかったであろうその色、緑がかった青色がくすんでしまった鞘に収められた剣は柄の部分にサビが出ていて、ボロ呼ばわりされてもしかたのないシロモノだった。

 息をのんで見つめていた牙門は手にした写真に写っているものと見比べると、大きくうなずいた。

「たしかにこれは私たちが探している剣、青竜剣です」

 ほうっとため息がもれる。本物の伝説の剣と聞くと、とたんに値打ちのあるお宝に見えてくるからゲンキンなものだ。

 それにしても、この剣が不思議な力を発揮して妖怪を退治したと聞いては、ぜひともその場面を見てみたいが、妖怪そのものが存在するかどうかも不明、本当にそんなことがあったのか、何百年も前の言い伝えでは信憑性もない。

 それでもせっかくの機会だからと、剣を抜いてみせてくれるよう、龍たちが頼むと、団兵はもったいをつけながら、ゆっくりと居合抜きのようなポーズをとった。

「抜けば玉散る氷の刃……」

 だが、団兵のかけ声もむなしく、目の前に現れたのは氷の刃などではない、薄汚れた木製の刀──剣の正体は木刀だったのだ。

 ポカンと口を開けた龍は「マジかよっ?」と声をあげた。いくらなんでもあんまりだ、どうやって木刀で妖怪をやっつけるというのだ。すっかり裏切られた気分である。

「ま、まあ、龍君、落ち着いて。伝説ですからね」

 そうとりなす至も期待外れだったという顔をしている。現実はこんなものだ。

「わかってるよ。それでさ、青竜剣のセイリュウってどういう意味?」

 気を取り直した龍が尋ねると、牙門はにっこり笑って説明した。

「中国古来の思想、方位を守護する四神獣のひとつですよ」

「ホウイをシュゴするシジンジュウ?」

「東西南北の四つの方位にはそれぞれに守り神がいて、東を守護するのが龍の姿をした青竜です。エイ族の祖先は四神獣にあやかって、四本の剣に同じ名前をつけた。どの方角からも災いが入ってこないようにと考えたらしいのです」

「へえ。じゃあ、あとの三つは?」

「南を守護する朱雀は鳳凰の姿を、北を守護するのは玄武といって、亀に蛇が巻きついた姿をしています。長の手元にあるのがこの白虎剣で、白い虎の姿の、西の守護神です」

 牙門が示した写真をみんなでのぞき込むと、そこには青竜剣と同じ形をした、白い鞘の剣が写っていた。

「鞘の色が違うだけで、同じ剣のようですね」

「では、この剣はいかがいたそう? もともとエイ族の所有の品とあらば、そちらにお返しするのが筋というものじゃが」

 いくら木刀とはいえ、長年家宝として大切に保管してきた剣である。返すとは言いつつ団兵は名残惜しそうだが、牙門は意外なことを言った。

「いえ、剣の所在がわかりさえすればいいのです」

「それはまた、なぜ?」

「さあ……祖父からの命令がそういうことでしたので」

 その点は自分でも納得がいかないらしく、さすがの牙門も困った顔をした。

 すると、至がまたもや口をはさんだ。

「気になる点があるのですが、剣が日本に渡ったのは七百年以上も前の鎌倉時代なんでしょう? どうして、今になって探そうとしているのですか? 再びエイ族のシンボルとしたいのなら、手元に返してもらうのが当然だとは思いますけど」

「いえ、そこのところも詳しくは聞いていないので」

 牙門は言葉をにごすだけである。

 彼を責めているような気がして、気の毒になった龍は「まあまあ、ドクター。在り処がわかればいいってんだから、それでいいじゃねえか。この話はここで終わり」と言うと、団兵の方を向き、隣に座るロッキーを示して切り出した。

「じいちゃん、こいつ、オレのクラスに転校してきたロッキー。剣道が習いたいんだって。大歓迎だろ?」

「もちろんじゃ。なに、お父上はアメリカのお人? いやはや日本の剣道も国際的にならねばな。柔道には負けておれん」

「じゃあ、入門オッケーなんですね? やった、よろしくお願いします!」

 大喜びのロッキーから牙門に視線を移した龍は彼にいきなりな話をもちかけた。

「なあ、おまえも剣道やらねえか? ここに通えば青竜剣を見張ることができるぜ。じいちゃんが折ったりしないか、監視した方がいいかもよ」

「こっ、こりゃ、龍、何てことを!」

 顔を真っ赤にして怒る団兵、この親友は何を言い出すのやらと至はハラハラした様子で、当の牙門は驚き、目を見開いていたが、やがておだやかに微笑んだ。

「武術はいくらかたしなんでいますが、私などの腕で通用しますかどうか」

「えっ、ホントに入ってくれるの? ラッキー! これで団体戦参加の希望の道が開けてきたぜ。よーし、あと二人だ」

 教室で宍戸から受けた屈辱を忘れてはいない。何がなんでも次の地区大会では団体戦に出てやると、龍は意気込んでいた。

 こうして、春日道場にはロッキーと牙門という二人の門下生が新たに加わったのである。

                                ……❷に続く